アウグスト・フォン・コッツェブーとヘーゲル

 A.W.シュレーゲルに批判され、ヘーゲルにも「下痢便」と揶揄された(1803年11月16日付書簡)当時の人気俗流作家A.V.コッツェブーであるが、彼は1819年に熱狂的な愛国者の青年に殺されたコッツェブーであるようだ。

 この事件は当時大きな衝撃を与え、論争を巻き起こしたようだが、ヘーゲルの『法の哲学』(1821年)の執筆背景にももちろんこの事件がある。例えば、序文(20頁)や§一四〇(〔d〕,376頁)でも明示的にでこそないが示唆的に触れられている。ただし、明示的にでないということによって、この特定の事件とは別のしかし類似した事件への批判ともなり得る。ヘーゲルのこの事件に対する心持ちを簡単に言うならば、ローゼンクランツが言うように、ヘーゲルはこのような「思慮を欠いた興奮」や「秘密の徒党行動」を嫌ったのである(『ヘーゲル伝』,289頁)。

 

参考文献

A.W.シュレーゲル著,大澤慶子訳,「ドイツ文学の現状概観ー抄」(『ドイツ・ロマン派全集第九巻 無限への憧憬ードイツ・ロマン派の思想と芸術』所収),国書刊行会,1984

ヘーゲル著,藤野渉・赤松正敏訳,『法の哲学 Ⅰ』,中央公論新社,2011

K.ローゼンクランツ著,中埜肇訳,『ヘーゲル伝』,みすず書房,1983