山口祐弘著『意識と無限ーヘーゲルの対決者たちー』(近代文藝社,1994)を読んで

 山口祐弘著『意識と無限ーヘーゲルの対決者たちー』(近代文藝社,1994)からのまとめ。

 

・カントの実践哲学における自由ないし自律の他律への転化(53-54頁)

 カントの実践哲学は、理性と感性との対立を前提とし、自由を感性的自然(必然性)からの離脱、道徳法則に基づく感性の支配のうちに認める。しかし前提された理性と感性との対立は、道徳法則に基づく実践が世界に実現されるという保障を与えず、有徳の士が幸福を得るという希望も認めない。したがって、カントは神の存在を要請し神への信仰を道徳的実践の支えとする。この信仰によって人間は徳のある行為の報酬として幸福を希望することができるとされる。このことは、自由ないし自律が他律に転化する可能性を含んでいる。